つれづれとミロ受けなお話ポチポチ書いてます。
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天蠍宮の地下室の床のタイルが一枚外れることと、それからそこに麻の袋が隠されていたことに気づいたのはこの宮の主…ではなくここのところ自宮である双児宮よりもこちらに入り浸ることの多い双子座の聖闘士、カノンだった。
しかしそれは、家捜しした結果に発見したわけではないことを彼の名誉のために先に述べておこう。
彼が隠されたそれに気がついたのは、ミロに頼まれ地下の夕食用のワインを取りに貯蔵庫に足を踏み入れた時にたまたま、で、なにもその時にふと、ミロの昔の日記が地下室のダンボールの中にに無造作に放り込まれていたのを発見して中味を勝手に拝見し、その内容の微笑ましいほど普通な子どもらしさに溜まらずやにやしてしまい、足元不注意で足を滑らせしたたかに後頭部を石床で打ちつけ、その衝撃で床の一部を破損して見つけてしまったわけではない。
断じて。
……というのがカノンの言い分だった。
「まったく…人の日記を盗み見るなんて最悪だぞ、カノン」
「だから、俺は日記と気づかずにだな…!」
「表紙にちゃんと日記と書いてあったはずなんだがな…まあ、いい。それは置いておくとして。足元くらいきちんと注意せねば頭の打ち所が悪ければ大事になっていたのだぞ?」
いくらお前の頭が石頭だとしても、だ。とミロは少しこぶになったカノンの後頭部に冷やしたタオルを当ててやりながらカノンがタイルの下から引っ張り出してきた麻袋をじっと見つめた。
「お前のだったか?」
「いや…記憶にないな。それに…ずいぶんと古そうだし…」
カノンから麻袋を受け取り持ち上げれば袋はさほど重くはない。
袋の大きさに比べ中身は小さいようで袋の下端の方が少しだけ膨らんでいる。
中を覗き込んでみればそれは束ねられた紙の束に見えた。
「なんだろう…手紙、かな?」
「手紙?」
袋をひっくり返し中身をテーブルの上に広げるミロに、ソファにうつぶせて横になっていたカノンも体を起こしてテーブルの上を覗き込んだ。
テーブルに広げる時の衝撃で古い紐が千切れたのか、ばらばらとちばらる何通もの便箋を一つ手に取りカノンは表面を改め、それから裏面を改めた。
送り名どころかあて先も書かれていない茶色にすす汚れた便箋。
しかし何故だろうか、触れた瞬間にじんわりとしみこんでくるように伝わるなにかに、カノンはそっと目を細めた。
この温かな感情は自分にも覚えがある。
だって、これはいつも自分が恋焦がれ、そして惜しげもなく目の前の人物により与えられているものなのだから。
「誰からの手紙だろう…名前が書いていないが」
「そうだな…中を改めれば分かるのではないか?」
「え?あ…いいのかな」
便箋を手に少し困惑してみせるミロに「構わんだろう。よほど見られたくなかったらとっくに捨てているはずだろう」とカノンは便箋を逆さにし中身をするりと抜き出した。
同じくらい茶色く変色した元は白かったろう手紙。
古いから破けないようにと慎重にそれを開いたカノンはその紙に書かれた文面に面を食らったような顔をして、それから破願する。
「カノン?」
「はは…、この手紙の主はどうやら手紙を書くのがずいぶんと苦手だったようだ」
「?」
怪訝な顔でカノンを見やればずいと渡された手紙。
その渡された手紙を覗き込み、お世辞にも上手とはいえない字で綴られた一行の文に目を走らせたミロは数秒考えた後に怪訝な顔をしてカノンの顔を見つめ返す。
「『手紙なんてかけるか、ばかカニ野郎!』……?」
「言ったろ? 苦手なようだ…って」
手紙の内容を反芻するミロにカノンは声を立てて笑い、それから他のも見てみようぜ、と別の便箋に手を伸ばして中身を取り出した。
他の便箋の中身も最初に空けたそれと大して変わりようのないものばかりだった。
文章を書きかけたものの一文字目で諦めてぐしゃぐしゃと上から消されたもの、先ほどみたいに誰かに当てられたのだろうがよく分からない内容のそれもたった一行のもの。
とにかく全てが書きかけで結局出せずじまいだったことだけは読み取れて、ミロは口元に小さく笑みを浮かべた。
「天蠍宮にあったということは…先代の書かれたものなのだろうな」
「だろうな。しかし捨てていない、隠してあったということは…ずいぶん大事な人に当てたものなのだろう」
「大事な人に…? カニ…もしかして、先代蟹座とか?」
「かもしれんな」
ふぅん、と新しい便箋に手を伸ばしながら呟くミロはその指に便箋が触れた途端、手を弾かれたように自分の方へと引き戻した。
「どうした?」と問うカノンに顔を覗き込まれミロは自分の手と、それからカノンと、そして便箋を見やって小さく頷いて見せた。
「なんかこれだけ…違う感じがする」
「違う感じ?」
「うん…なんか、こう…胸がぎゅっとするんだ」
ミロは触れるのを躊躇っているよう巣立ったので変わりにカノンがその便箋に手を伸ばした。
なんの変哲もない、他の便箋と代わり映えのしない便箋。
しかしそれは手に取った瞬間、カノンにもミロのいっていたことが理解できた。
なぜこれだけ他のモノと違うのか、と。
「手紙…ではないようだな」
便箋の中から出てきたのは手のひらの半分ほどのサイズの厚紙だった。
うっすらと細い線で描かれたのは何かの植物のスケッチ。
字と同じくさほどうまくはないがしっかりと書き込まれたそれはなんとなくだがシロツメクサのようにも見えた。
カノンはそれをじっくりと見つめた後ひっくり返して裏面に目を通した。
端のほうに先ほどまで見ていた他の手紙と同じ筆跡で一行「俺の気持ちだ」と消えそうな文字で走り書きされているのがかろうじて読み取れる。
「カノン、なんて?」
「うん…?んー……そうだな。熱烈な、ラブレターってところかな」
「ラブレター?」
「ああ」
厚紙をミロに手渡して、それからカノンは立ち上がると窓際の日の当たる場所へと一人向かってしまった。
渡されたそれを見つめ、しばらく首を傾げていたミロも同じくカノンの傍へと歩み寄る。
「シロツメクサの花言葉は、私を思って…だったかな」
「私を、思って?」
「手紙不精のお前の先代様がソレを知っていたかどうかは分からんがな」
ふ、と小さく微笑むカノンの表情にミロは胸の辺りにつきりとした痛みを感じる。
どうしてだろう、そんな風に微笑まれた事が遠く昔にあったような気がしたのだ。
きっとそれは思い違いなのだろうけれど、この感情は暖かく、優しく記憶の根底をゆらゆらと揺さぶる。
「な、なあ、これってさ!デスマスクに頼めば積尺気に送ってもらって、それでもって先代様に渡せたりとかしないかな?」
「先代に…?はは…どうだろうな。試す価値はあるかもしれないな」
カノンの返事にミロはぱぁと顔を輝かせると机の上に広げた手紙の束をもう一度袋の中に丁寧にしまい大事そうに抱きかかえた。
「渡したいんだ。だって、こんな暖かいもの、渡せなかったらもったいない!」
「……デスマスクにきりきりと働いてもらうか」
「ああ!そうしよう」
今日は非番だからきっとデスマスクは双魚宮でシュラとアフロディーテとお茶でもしているだろう、にやりと笑みを交し合い、そんな会話を交わしながら二人は天蠍宮を後にした。
机の上、うっかりと忘れられた手紙が一通。
窓からの風で舞い上がり、それからすぅと溶けるように消えたのはきっと、誰も知らない。
「手紙?」
「ああ。かって気ままに旅に出るのもいいけど、連絡くらい寄越せって話だ」
興味深い祭りの話を聞いて聖域をこっそりと抜け出そうとした俺に、どこから聞きつけたのかマニゴルドは見送りに来るとそういって紙の束を渡してきた。
マニゴルド的には「旅に出るのも問題」なのだそうだがそんなもの俺はしったこっちゃないし、そんな命令聞く耳ももたないから、せめてものってことらしい。
正直面倒くさいし、うざったくてたまらなかったから受け取って適当なトコで捨てちまおうと思ったのだが…気づけば旅先の宿でそいつを机に広げペンを持つ健気な俺が居たわけで…。
「んあー…手紙なぁ」
手紙なんて自慢じゃないが生まれてこの方書いたためしがない。
医者からの診断書とかそんな手紙は山ほどもらったけど、自分から誰かに書く、なんて考えたこともなかったのだ。
「手紙書く相手もいなかったしなぁ」
ぷらぷらとペンを揺らせばぴぴとインクが白い手紙に飛び散って滲んでいった。
汚れてしまった、けど、もったいないからこのまま使おう。
俺は溜息を一つ吐き捨てインクの滲んでいない部分にペンを走らせた。
短く一言
「手紙なんてかけるか、ばかカニ野郎!」
こんなもんで良いだろう。
蟹野郎にあてる手紙なんて、こんなもんで。
……と、最初の手紙を書いたのがもう半年前だ。
今では旅に出るたびに旅先からマニゴルドに手紙を書くのはもう癖、みたいになってる。
内容なんて相変わらずだ。あってないようなもの。
だのに、マニゴルドにその手紙は……渡せずじまいだった。
聖域に戻るたびにマニゴルドにはちくちくとそのことに小言を言われる。けれど、なんだか今さら渡せなくなってしまったのだ。
旅先で買った綺麗な手紙とか、便箋とか。
いっぱい見せたいものがあったけど、まとまらなくて、手紙を書いてもなんだか渡すのが気後れしてしまって。
「シロツメクサ…」
「あん?」
「なんでもねえ」
巨蟹宮のマニゴルドのベッドの上。
久々のマニゴルドの匂いがたっぷり染み付いたベッドの上でまどろんでいればつい、口にしてしまったらしい。
マニゴルドに首を傾げられ俺は枕に顔を埋めて誤魔化すようにそう短く返した。
今回の旅先で見たシロツメクサが一面に咲き乱れた草原は本当に綺麗だった。
真っ白い花弁が絨毯のようで…きっとサーシャあたりなら大喜びで花の冠とか作ってあろうと思う。
あの景色をサーシャにも、それからマニゴルドにも見せてやりたいと思った。
思ったけど口にはしない。
来年のことなんて…誰にも分かりやしないから。そんな遠い約束を口にするのはなんとなく憚られたから。
『シロツメクサの花言葉を知っていますか?』
村人の女の子が楽しそうに教えてくれたっけ…。
枕から顔を上げ、それからマニゴルドの胸に額をくっつけながら俺は彼女が続けた言葉を思い出していた。
『私を思って、と言うんですよ』
花言葉なんて興味ないし、そんな女々しいものを口にする趣味はない。
だけど、無意識にシロツメクサをスケッチしていたのは自分だ。
その裏に嬲り書きで、渡すことのないのに一言を添えたのも自分。
「マニ…マニゴルド」
「どうした?」
「なんでもない…なんでも」
ぎゅっと抱きしてくるマニゴルドの腕の強さに、なんだか安心するのが癪だけど…今は甘んじて甘えておいてやるよ。
マニゴルドの背に腕を回して俺はもう一度目を閉じた。
手紙さえ素直に渡せないけれど…気持ちさえ素直にいえないけれど…
それでも、俺は…。
天蠍宮の地下室にひっそりと隠したたくさんの手紙。
いつか、きっと渡せたらいいなと思う。
そして、それを渡せたら言ってやるのだ。
「お前のことが大好きだぞ!」と。
きっと…きっと。
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