つれづれとミロ受けなお話ポチポチ書いてます。
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思い出せないのは、貴方の「笑顔」
貴方の「涙」
アイオロスがアテナ殺害を企て聖域を逃走した。
知らせは事件が起こったその日に「アイオロスの死」という結果で結末を迎え、事件の概要は翌日の朝に聖域中を震撼させた。
誰にも尊敬され、また誰もの憧れであった彼が裏切ると誰が予想できただろうか。
それはきっと今、上級神官ら年上の黄金聖闘士にきつく尋問されているアイオリアだって想像していなかったろうし、またアイオロスをアイオリアと同じくらい「兄」のように慕い、懐いていたミロだって夢にも思わなかったことだった。
アイオロスは憧れで、目標だった。
その彼がそんな大それたことをしでかした、という知らせだけでも充分ミロは心を痛めたものだったが、しかしそれと同じくミロの心に深く影を落とす知らせがあった。
それは…
「サガ…」
人の気配のない双児宮の居住スペース。
勝ってしったる風にミロはそこに身を滑らせるとこれまた人の気配のない寝室へと足を踏み入れた。
この部屋で最後にサガの子守唄を聞きながら眠りに着いたのはいつだったろうか。
「アイオロスの死」の知らせから三日後「双子座の聖闘士の行方」という知らせをミロは耳にした。
後者は前者の件でこれ以上聖域を騒がせるわけには行かない、と上のほうの人間の間でしばらくの緘口令が敷かれていたのだが、ミロは偶然にも神官がその話をこそこそと話しているのを聞いてしまったのだ。
アイオロスの件が収まれば時期にサガが行方不明になったという話も瞬く間に聖域中に広がるのだろう。
アイオロスと同じくらい多くの人々に尊敬されたサガ。
アイオロスと同じくらい…いや、もっとかもしれない…ミロはサガが好きだった。
憧れや尊敬では済まされない程度には…心の奥底が子供ながらにきゅうとしめつけられる程度には好きだったのだ。
「サガ…どこにいっちゃったんだよ…」
ぽふり、とサガが使っていたベッドにうつ伏せに倒れこみミロはぼそりと履き捨てた。
誰も答えを返してはくれない。一番応えて欲しい人は傍には居ない。
寒すぎる部屋の中で、まだかすかにサガの匂いが残っているような気がするベッドの上でシーツに顔を埋めるミロは、ふいに自分の背後に誰かが立っている気配を感じて顔を上げた。
まだ幼いとはいえ、黄金聖闘士の端くれである自分がこんなに身近に誰かが近づいていたことに気づかなかったとは…!
「っ…ぐ!?」
あまりの不甲斐なさを恥じ入りながら、振り返るミロは次の瞬間、とてつもない力でベッドにうつ伏せのまま押し付けられて息を詰まらせた。
「な…にを、するっ、誰だっ」
「……」
息も絶え絶えに声を上げ、そして緩んだ手の力が緩んだ隙にその手を跳ね上げ体を反転させたミロは振り返った先の人物に思わず、目を丸めてしまった。
だって…想像もしなかったのだ。
予想にも。
その人物に会うことを心の底から渇望していたというのに。
「さ…が?」
「………」
薄暗い、カーテンを閉め切った双児宮の寝室。
こちらを向いたまま俯くサガの表情は垂れた前髪で隠れてわからなかったが、その前髪も長い長い綺麗な髪もまるでカラスの羽のように、新月の夜の闇のように真っ黒に染まっていて、ミロは言葉を無くしてしまうのだった。
なにかあったのか?
いままでどこに行っていたのだ?
聞きたいことは多々あった。
いますぐサガに抱きついて、「もうどこにも行かないで欲しい」と泣きつきたい気持ちもあった。
けれどそれを躊躇わせたのはサガが放つ冷たくまがまがしい気配の所為だ。
「サガ……?」
「…ふふ」
「サガ?」
「ただいま…ミロ」
ぞくり、と背中が震えた。
目の前のサガが恐ろしく思えてミロは思わずベッドの上を後退ってしまう。
けれど、サガはそれを許しはしなかった。
「どこに行くんだい、ミロ。私のことが嫌いかな?」
「き、嫌いじゃない、よ。けど、サガ…」
「じゃあ…好きなんだろう? ふふ、私も大好きだよミロ。愛している…お前を独り占めしたいほどにはね」
サガに「好き」だと言ってもらえて嬉しいはずなのに、ミロは心臓を鷲掴みにされたように感覚を覚え、どっと額に汗が浮かぶのを感じた。
目の前にいるのは確かにサガだ。
発する小宇宙も、その声も姿も確かに。
けれど、目の前の男はサガではない。
「ミロ…私だけを見て、私だけを信じなさい。私が…お前の全てだ」
思い出せない貴方の「顔」が。
目の前にいるのに。
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