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なかなか進みません^^;
長老達による蟹弄り祭www



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「高価なものを送るのがすべてではないと思うぞ。重要なのは心だ」


たよりになりそうなその兄貴分はにっかりと笑って言いました。



磨羯宮の次の宮は人馬宮だ。
長く主が不在だったその宮は聖戦の終わりとともに主も蘇り、戻ってきたために今ではそこは活気にあふれていた。
少し前まで両隣がどっちも不在で寂しかったのだ、と気恥ずかしげにミロが言っていたことをカノンは思い出す。

「やあ!デスマスク、カノン」

人好きのする笑顔で声をかけてきたのは宮の主であるアイオロス。
その隣には彼の弟であり獅子宮の主でもあるアイオリアがなにやら小包を抱えて立っていた。
カラフルな包装紙に包まれピンクのリボンが結ばれているそれは推理するまでもなくミロへの誕生日プレゼントだろう。
カノンの視線に気づいたのかアイオリアは「ああ」と短く声をあげるとそれを軽く掲げ、カノンの想像通りの言葉をつづけるのだった。

「ミロへの誕生日プレゼントなんだ」
「へぇ、お前らは何を用意したんだ?」

尋ねるデスマスクにアイオリアは一瞬「ん?」と小首をかしげたがすぐになんでもない風に「CD」だと返事を述べる。

「ミロが欲しがってたバンドのな」
「ミロが…」

ああ、またしても…口にはしないがカノンは胸中でぽそりと呟いた。
ミロが意外にもロックミュージックを好んで聞いていることは知ってはいた、だがどのバンドが好きなのかまではカノンも聞いた事がなかったのだ。
やはりそういう所にも付き合いの差、というものが如実に表れてしまうのだろう。
それがカノンにはやはり悔しく感じられる。
そう思ったところでその差が埋められないのは分かっていながら、だ。

「カノン?」
「あー…気にしなくていいから。たぶん「俺はミロについて何も知らないんだなぁ」とかそんなこと考えて落ち込んでるだけだぜ…っで!殴るなよ!」
「五月蝿い!蟹!」

怪訝な顔で首をかしげるアイオリアに、デスマスクがさらりと言ってのける。
それが余りに図星なのが腹が立って、ついカノンはデスマスクの足を思い切り踏みつけてしまった。
その様をアイオロスはにこやかに眺めるだけだ。

「俺はミロについて知らないって…ソレは仕方ないんじゃないか?」
「それがこいつぁ悔しい!んだってさ」
「でーーすーーまーーすーーくーー!!」
「ふふ…」
「兄さん?」

性懲りもなくまたもや嫌味を連ねるデスマスクに低い声を上げるカノンに、小さな笑い声を洩らしたのはアイオロスだった。
きょとんと目を丸める弟のアイオリアに、アイオロスは「ああ、すまないな」と小さく咳払いをすると「お前達のやり取りがおもしろくて」とその嫌味のない笑みを湛えたままに言う。

「ミロの好みは長い付き合いの俺たちには分かって当然だからな。その点は…仕方のないことだと思うよ」
「アイオロス」
「だからといって、金にものを言わせたプレゼントがいいかと言うものでもない」

一瞬、カノンはぎくりとした。
ミロが望むものが分からないならそれならいっそ高価なものでも…と思わないでもなかったのだ。
今までアイオロスという男と触れ合う機会はなかったが、確かにサガが警戒していただけあって思慮深く、そして勘の鋭い男だ、とカノンは思わずごくりと息を飲んだ。

「高価なものを送るのがすべてではないと思うぞ。重要なのは心だ…カノン。ミロは確かにお前を自分の恋人として選んだのだ。だから、お前がミロにしてやれる…恋人としてのプレゼント、気持ち…それがプレゼントの最大のヒントになると思うんだよ」
「アイオロス…」

一瞬、お前が兄さんだったら良かった…と思ったのは言わないでおこう。
口をぐっと噤み頷くカノンは目の前のアイオロスが目を細め楽しそうに口元を歪めたを見て「ああ、こいつ勘付いてやがるな」とやっぱり自分の兄がこの男じゃなくて良かったと改めて思うのだった。




「お前さんからの贈り物ならばミロはなんだって喜びそうなもんじゃがのう」


きょとんとした顔をしてその長老は言いました。


人馬宮を抜けると次は愛する人が守護する天蠍宮である。
しかし今そこは主不在だ。
つい先だって所用で聖域を離れた彼は丁度明日…誕生日の前日に帰ってくることになっている。
よいタイミングでの帰還…といいたいところだがそこはサガの公私混同技の賜物であろう。
いつもならば自分が足を踏み入れたらすぐに飛んできてくれる暖かな小宇宙の感じられない、静まり返った天蠍宮を無言のまま突き進むと珍しくその隣の宮に大きな小宇宙を感じられた。
一つは天秤宮の主、童虎のものだろう。
しかし、もう一つ感じる童虎にも劣らぬ強大なこの小宇宙は誰のものだろう…そう思考をめぐらせる二人はその答が出る前に直接、脳内にその人物から話しかけられた。

「小僧ども、丁度いい。中庭に寄れ」

有無を言わさぬその命令はムウの師であるシオンのものだった。
互いに顔を見合わせデスマスクもカノンも口元をゆがめると「了解しました」とすぐさまそれに返事を返し、天秤宮の中庭へと足を踏み入れるのだった。
各々の宮の中庭は居住スペースと同じくその宮の主のセンスによって様相がかなり異なっている。
例えば…アフロディーテはバラ園として活用しているしシュラは鍛錬場として活用している。
ミロが治める天蠍宮の中庭にはりんごの大樹が植えられていて、この一つ下の処女宮の中庭は沙羅双樹の園として季節になると美しい花々が咲き誇る聖域の中でも指折りの名所となっていた。
天秤宮の中庭は竹林だった。

「ここじゃここじゃ!いやぁ、たまには別の顔もないとな。シオンとばかりでは流石に飽きてしまうわい」

そう、人好きのする笑顔でさらりといってのける童虎にどう返してよいものかと二人は乾いた笑いを漏らす。
齢にしてとうに200を超えている彼らは、しかし聖戦の終わりと共に蘇えった後は前聖戦の頃の肉体でこの世に蘇えってきた。
「お主らよりぴちぴちじゃぞ!」と自慢げな彼らに「じゃあ、きびきび働いてもらいますね!」とムウが言ったときの「でも肉体は若くてもわしらの脳細胞はもう灰色じゃから!」の返事は今でもばっちりカノンは声付きで脳内再生可能だ。

「めずらしいですね、お二方。仕事を押し付けられるのが嫌で滅多に帰ってこないのに」
「まあのう。じゃが、そうも言っておられんだろう?」
「今週末はミロの誕生日だからな」

シオンの言葉にカノンは「おや?」と小首をかしげた。
サガが偽教皇として君臨していた時代、ミロが教皇のお気にとして可愛がられていたといううわさがまことしやかに聖域中に流れていたというのはカノンも誰からともなく聞き及んでいたことだが(実際、あの兄ならやりかねないとカノン自身思ったほどだ)シオンがミロを可愛がっていたという話は聞いていない。
意外そうな顔をして立ち尽くすカノンに童虎はくすりと笑い声を漏らすと「まあ、なんだ。まずは座れ座れ」とカノンたちを自分たちの向かいに座るよう促した。

竹林の中の東屋は豪奢な作りではないが趣があって心が落ち着く。
出された中国茶を飲み、ほうと息を吐き捨てれば頬を撫でる風が火照った体に気持ちよかった。

「ふむ。恋人というものは一緒におるとどうも似て来るものなのかのう」
「? どういうことです?」
「ミロに茶をご馳走したときも同じように息を吐き捨てて、うっとりと竹林を眺めておったよ」

指摘され、カノンは少し耳が熱くなるのを感じた。
うっとりとしていたつもりはなかったのだがつい、気が緩んでそうなってしまっていたかもしれない。
「甘酸っぱいのう~」と言葉を漏らす童虎に「違いねえ」と笑い出すデスマスクにカノンが肘鉄を繰り出したのはわざとではない。不可抗力だ。

「なにすん…もがっ」
「いいから、これ喰ってろ!」

文句を繰り出す前に手近にあった月餅をデスマスクの口の中に放り込めばデスマスクは「解せぬ!」と言わんばかりの表情を浮かべるが文句を口にすることなく口の中の月餅を咀嚼し始めた。
デスマスクがうるさい時は口の中に食べ物を詰め込めばいい。
あいつはマナーにだけはうるさいから何か食べている間は静かになる、とのミロのアドバイスは本当だったらしい。

「ミロだけじゃなく、聖闘士達はみなわしらには可愛い子…いや、孫みたいなもんじゃよ。なあ、シオン」
「ああ。中には可愛げのない者もいるが、な」
「その可愛げのないのって俺のことっすか?」

いつの間にか月餅を食べ終わったデスマスクが自分で茶を入れながらシオンの言葉に半目を向けていた。
さっと二人が同時に月餅を手にしたのをカノンは見逃さない。

「まあまあ、そう怒るでない。わしらにはお前さんも十分可愛い後輩じゃよ、デスマスク」
「ああ。可愛いカ、後輩だな」

にこやかに言いながらじりじりと月餅をデスマスクの口にねじ込もうと狙う二人の目は残念だが笑ってはいない。

「あんたら!体の良い事言いながら無理やりそれを食わせたいだけだろ!って、ほんと口の中乾燥するからやめ、うぎゃあ!」

問答無用でダブルで投げ込まれた月餅にカノンは「あーあ」と思いながらも助け舟を出すつもりは全くなかった。
これっぽっちも。

「それで、お前たちはもうプレゼントは用意したのか?」

シオンに問われ、口の中のものを咀嚼しながら頷くデスマスクとは反対にカノンは気まずそうな表情で首を横に振る。
ここまで双魚宮、宝瓶宮、摩喝宮、人馬宮と様々なアドバイスをもらって降りてきたがカノンの悩みは解決するどころかますます深くなってゆくばかりだった。
自分らしく、高価過ぎない恋人として思いの詰まったもの。
そんなものをすぐに思いつけるくらいならこんなに苦労はしない。

「そう悩むことはないと思うのだがのう」

肩を竦め、童虎はカノンへ視線を向けた。

「お前さんからの贈り物ならばミロはなんだって喜びそうなもんじゃがのう」
「ミロの優しさに甘えて…微妙なプレゼントをやることだけは避けたいんです」
「優しさ…? お前の言っていることは私には良く分からんな。ミロは世辞で喜んで見せるほど器用な男でもあるまい。それにたとえ路傍の石がプレゼントだとてくれる者が違えばそれは宝石以上に大切なものになると、私は思うぞ」
「宝石、以上に…」
「因みにわしは中国菓子詰め合わせで、シオンは…なんじゃったかの?」

童虎の言葉に少し呆れた風に肩を竦め、シオンは溜息を吐き捨てた。

「童虎……。私は聖衣修復券、だ。何かあったら私自ら修復してやろう・・・というサービスだな」
「そいつぁ豪勢なことで」
「血はお前が提供しろ、デスマスク」
「は!?なんで俺が!」
「血の気が多そうだからな」

流石に学習したのか、口元を押さえながらぎゃんぎゃんとシオンの吼えるデスマスクと、それを微かな嘲笑で迎え撃つシオンを横目に、カノンはさてどうしたものか…とまた頭を抱えてしまった。

「何も難しく考える必要はないのだぞ? カノン…きっと、お前だけが思いつくプレゼントがあるはずじゃ」
「俺、だけが…」
「ああ」

言って頷く童虎の浮かべる笑顔は長く聖闘士を見守ってきた人間だけが持ちえる安心だとか頼もしさに溢れていた。
それはミロとはまた違う、温かなものだ。

「老師…、ありがとうございます!」

椅子から立ち上がりぺこりと頭を下げるとカノンは口の中にこれでもか、と月餅をつめこまれたデスマスクを引きずり、天秤宮を後にした。


【五番目のお茶会】

「俺は人間ディスポンサーじゃねえ!」
「(そういいながらも律儀に月餅食うんだな、こいつ)」

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