つれづれとミロ受けなお話ポチポチ書いてます。
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アルデバランという男は実にまめな男である。
でかい図体に似つかず…といえば少々言い方が悪いのだが、その大きな体躯とは裏腹に細かい作業が得意であったり、細かいことによく気がついたりと、豪快な性格とあわせてなかなか気のよい男だとミロは常々思っていた。
そんな彼が守護する聖域第二の宮、金牛宮。
任務帰りに立ち寄ったミロは鼻先をくすぐる甘ったるい香りに、はて、と足を止めた。
シナモンとそれからカラメルの香ばしい香り。
まるで犬のように鼻先をくんくんとひくつかせる様は蠍と言うよりはまるで犬のようではあった。
だが生憎、それを指摘するものも揶揄して笑うものもそこには折居らず、しばし立ち尽くすミロに不意に声を掛けたのはこの宮の主であるアルデバランであった。
「ミロ。任務帰りか?」
人好きのする笑顔を浮かべミロの方へと歩み寄るアルデバランは黄色いエプロンを身に着けている。
それは去年、ミロがアルデバランの誕生日にプレゼントしたものだ。
確かあの年はカミュは圧力鍋、アイオリアは包丁セットといった具合に皆してアルデバランへの贈り物がキッチン用品に偏っていて、笑いの種になったのをミロは思い出す。
そしてそんな彼のエプロンからも、そして彼自身からも強く香る甘い香りに目を細めるのだった。
「今日は貴鬼が遊びにでも来るのか?」
金牛宮の隣に位置する白羊宮。その主の弟子である貴鬼がよく金牛宮に遊びに出向いていることは少し離れた位置に在する宮にいるミロもよく知るところであった。
流石に自分のところまでは貴鬼もこないのだが、アイオリアの宮でちょくちょく見かけることもある。
また貴鬼にお菓子でも強請られたか?と問えばアルデバランは「そうではない」とにっかりと豪快に笑いながら「今日はハロウィンだからな」と返事を返すのだった。
「そういえば…そうだったな。すっかり失念していた」
「今年はアテナが発案者だからな。盛大にせねばならんぞ」
沙織さんはお祭り好きだから、とは確か星矢の台詞だったように思う。
そういった行事にはまったく不慣れなこの聖域だが今生のアテナのそのフレキシブルさを遺憾なく発揮し、そして青銅が吹き込んだ新しい風がどんどんここを変えていくのだろう。
それはいささかミロを不安にもさせたが、それ以上に期待感がミロの胸の中には渦巻いてもいた。
「さあ、ミロも戻って菓子を用意せねばいたずらされてしまうぞ?」
豪快に笑いながら言うアルデバランは本当に楽しそうで、ミロもつられて口元を緩める。
「そうだな。それは困る。特にデスマスクあたりのはえげつなさそうだしな」
「はは、違いない」
ハロウィンなど面倒くさいと文句を言いながらの結局始まれば一番盛り上がるのはラティーノの血の所為なのだろうか。「俺ぁハロウィンの夜は狼になるぜ」と豪語していたことを思い出しながらミロはふと、目の前にいるまた同じくラティーノの男ににやりと唇を歪めるのだった。
「俺はアルデバランになら悪戯されてもいいけどな」
「え…」
ぽかん、という形容詞が見事に当てはまる表情で口を開け放つ彼は次の瞬間には耳まで真っ赤に顔を染め上げた。
なにを想像しているか、当てるのはきっと簡単だろうがこれ以上相手を追い詰めるのは無粋と言うものだろう。
それでもちょっとの悪戯心が抑えきれなくて「アルのエッチ」と背伸びして耳元に吹き込めばビシリ!とアルデバランの体が硬直し、ミロは口から洩れそうになる笑みを堪えるのが大変だった。
「ミロ!」
「ふふ、すまんすまん」
渋面をつくるアルデバラン。伸ばされた腕から難なくするりと逃げてミロは口元に笑みを湛える。
まだ、捕まる気はない。
もう少し焦らしてから。
「今夜は楽しみにしてる、アル」
「この、小悪魔め」
振り向きざまに言えば口元をにやりと上げながらアルデバランがそういうものだから今度こそミロは噴出してしまうのだった。
今夜の仮装は「小悪魔」っていうのもありかもしれない。
【ハロウィンの小悪魔】
「あ、でもアルデバランのアップルパイ食べたいし…でも、アルデバランに悪戯もしたい!」
「……好きにしてくれ」
「トリックオアトリート!」
「ああ、貴鬼。俺からはこれをやろう」
「やったー!ミロ様ありがとう!」
パンプキンヘッドを被った小さなモンスター、もとい貴鬼はミロが小ぶりのアップルパイを差し出すと大喜びで跳ね回り、そしてぺこりと頭を下げた。
子どもにとってハロウィンはクリスマスに次ぐ一大イベントに他ならない。
サガあたりに言わせれば「古くは何百年前のうんたら」と講釈が始まるのだろうがちびっこたちにはそんな長ったらしい呪文のような話など興味もなかれ場お呼びもない。
重要なのは「お菓子をどれだけ多く回収することができるか」だけなのだ。
小難しい大人の話など子どもの世界にはただただ無粋なだけである。
「すみません、ミロ」
「気にするな。今日はハロウィン。子供たちにとっては大切な日だろうからな」
申し訳なさそうに眉を下げるムウにミロは破顔しながら被っていた魔女の帽子を得意げに片手で持ち上げて見せた。
自分たちが子供の頃には考えられなかったが、今こうして自分達の後進が行事を楽しみ、はしゃいでいる姿を見ると心が温かくなるような気がするのだ。
そんなことを口にした日にはきっとシオンあたりに「生意気を言うな小僧」と鼻で笑われそうなので絶対に言わないが…。
「ああ、そうだ…。えーっと、これはシオン様に。それでこっちはムウに」
菓子をもらった貴鬼は満足したのかとっくに天蠍宮を飛び出て上へ上へと向っている。
今日は無礼講だし、それに次宮には日本から菓子ハンティングに来ている星矢達もいるから放っておいても大丈夫だろう。
そう判断し、ミロは少し疲れた様子のムウに少し休んでいけばいいと椅子を勧めるのだった。
「貴鬼のハンティングはなかなかいい調子らしいな」
「ええ。あのデスマスクまでもがお菓子をくれたことには驚きましたが」
言われて、さてあの男どんな顔して菓子を用意したのだろうと想像してミロは口元を緩めた。
ぶっきらぼうで口は悪いがデスマスクと言う男が存在面倒見がいいことは結構黄金聖闘士の中では周知の事実だったりする。
実際、ミロを始め年少黄金聖闘士はデスマスクに小さい頃はよく餌付けされていたくらいだ。
「しかし、仮装というのも悩みものですね。何を着るかで散々悩みましたよ」
「そうなのか?似合っているぞムウの……なんだ、その、ゾンビ?」
「キョンシーですよ。中国のお化けです」
両手を広げて衣装を見せてくれるムウのその格好はなかなか様になっていた。
ただ、真っ白な顔色と目の下の隈がいささか怖いが。
「そういえばサガ達も悪戦苦闘していましたよ、衣装と」
「ほう。そんなに難しい服にしたのかな?」
今日の仮装は基本みんな何をするかは秘密にしていた。
出会ったときの楽しみだ、という事らしい。
だからミロもサガ達が何を着るかはしらないし、向こうもミロが何を着るかは当然知らない。
「それは向こうに行って直接確認してあげてください。本人達はその衣装で貴方に会うこと、楽しみにしてるみたいですから」
「? そうなのか? ならそうしようかな。俺も菓子ハンティングにそろそろ出かけようと思っていたところだし」
「悪戯されないよう気をつけてくださいね」
包み紙で包んだアップルパイをいくつか、かばんの中に詰め込むミロにムウは苦笑しながら忠告をする。
その言葉に「お菓子なら持っているぞ?」と首をかしげるミロにムウはくすくすと笑いながら「違いますよ」と小さく零すのだった。
「それも、双児宮に行ったら判ると思いますよ」
「う…なんだかあっちに行くのが怖くなってきたな」
少々嫌そうに顔を歪めるミロに、ムウは穏やかな微笑を湛えたまま「まあ、がんばってください」と耳元に囁いた。
思わずミロは口元がひくつく。
ムウの忠告が外れたためしは今まで…皆無だ。
ハロウィンにかこつけなにやら不穏なことを…とサガはやらないだろうがカノンならやりかねない。
いや、カノンが入るからサガも釣られてやりかねない。
「お前こそ、星矢たちに根こそぎやられないように気をつけろよ!」
「ええ、心得ました」
天蠍宮の中腹、ミロは下へ降りるために入り口へムウは上へ上がるために出口へ。
多少の不安のを越したまま別れ際にムウへそう忠告をすれば彼は小さく頷き人馬宮へと向かって歩き出した。
その背を見送り、ミロも双児宮へと向かうために入り口へと向かう。
「大人の悪戯…は…悪い予感しかしないな」
嫌そうな声色での呟きだったが、しかしミロの表情は穏やかな笑みだ。
【ハロウィンハンティング】
「そして双児宮のお話に続く…っと」
「待っているよ…ミロ」
「なんか、ぞくっとした…!」
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