つれづれとミロ受けなお話ポチポチ書いてます。
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「なぜ私がそんなことを教えねばならない?」
聖域においての最大級の好敵手は絶対零度の表情でそう言いました。
双魚宮を抜け宝瓶宮へ。
この宮もまた、カノンが苦手とする人物が収める場所だった。
行きは不在だったのか静だったその宮はしかし、双魚宮からの帰りしなカノンが足を踏み入れた瞬間一気に不穏な小宇宙を立ち上らせる。
どうやら宮の主はいつの間にか帰ってきていたらしい。
心なしか温度がぐぐっと下がってゆく宮内にたまらずカノンはぐるりと肩を震わせた。
「おいおい、クールが心情のカミュさんよ。んなに熱くなるなっての」
そう、口元に揶揄するような笑みを浮かべこの宮の主に声を掛けたのはデスマスクだ。
彼的にはそんなカミュの機嫌の悪くなり方も慣れているのだろう。その表情は平然としている。
アフロディーテに勝るとも劣らぬ美貌の持ち主であるカミュはその燃えるような赤い髪や発する剣呑な小宇宙とは裏腹の冷たい眼差しでカノンを一瞥するとさっさと行けとばかりに顔を逸らした。
ここで彼の思惑どおりに宮を抜けるのは簡単な話だ。
だが、カノンにはどうしても聞かなければならないことがあった。
たとえ相手が「ミロに思いを告げる際に最大の壁」と認識した相手でも。
たとえ相手が自分に対しアフロディーテ以上に嫌悪を持っていたとしても…だ。
「しかしやっぱり戻ってきてやがったなカミュ」
「当たり前だ。私の大切なミロの誕生日が間近なのだ…戻ってこないわけがなかろう」
やけに「私の」を強調して言っていたがあえてカノンはそれを聞き流した。
カミュの言葉尻を捉えると埒が明かないのはやはり身をもってカノンは知っているのだ。
「つーことはだ、お前さん、もうプレゼントは用意してるよな?」
「当然だろう。もう誕生日は間近なのだぞ?」
デスマスクの問いに頷き返すカミュはちらりとカノンへ視線をよこし、それをすぐにデスマスクへと戻した。
先ほどからやけにカミュがこちらを見てくるが早く出ていけ…という事なのだろうか…?
ぐっと込みあがりそうになる言葉をカノンは飲み込む。
そして、努めて冷静を装いカミュを見つめ返すのだった。
「それがどうしたのだ?」
「いやなに。こっちの双子座弟さんがよ、何をプレゼントしていいか悩んでてな。それで相談行脚ってわけだ」
「デスマスクっ!」
クールすぎる抑揚のない声で問われ、デスマスクはあっけらかんと言い放つと親指でカノンを指差した。
確かに彼の言うとおりで、覚悟を決めてここまで登ってきたのは事実だが、しかしあけすけに言われるとやはり気恥ずかしさが表立つ。
それも相手はライバルの男だ。
たまらず非難の声を上げかけるカノンだったがしかし、それは寸前で感じたカミュの鋭い視線にぐっと押し留められるのだった。
「そんなことを聞きに…ここまで来たのか?」
「そういうこと。んで、参考までにお前が選んだプレゼント教えろよ」
呆れと侮蔑と嘲笑と…良い感情の一切含まれない表情でカミュはしばし、言葉を述べたデスマスクとそれから何も言えずに立ち尽くすカノンを交互に見やり、盛大に溜息を吐き捨てた。
「なぜ私がそんなことを教えねばならない?」
絶対零度の男には取り付くしまさえありはしなかった。
「じゃ、邪魔したな。カミュ」
カミュの言葉に凍りついたカノンを引きずりデスマスクは軽く手を掲げる。
カミュの言葉は慣れた者にはそうでもないが慣れない者にはきつすぎるものだ。慣れないカノンが容赦のないカミュの言葉に凍りつくのはまた、仕方のないことだ…とデスマスクは武士の情けとカノンの腕を引っ張り引きずっていたがふと、カミュが吐き出した先ほどまでとは違う溜息に足を止めるのだった。
「あれが…ミロが選んだ男だからと我慢をしようと思ったのだがな…」
「ついついやっちまった、てか。まあ、てめえの場合は仕方ねえのもあるわな」
苦笑し、デスマスクはぽりぽりと後頭部をかきながら続ける。
「どうもミロはダメな男に引っかかりやすいようだしな。こいつとかお前とか…俺とかな」
「……違いない」
デスマスクの言葉に、カミュは困ったような笑みを口元に浮かべると小さく肩を竦めるのだった。
【二番目は絶対零度の宝瓶宮】
「デスマスク。カノンが気がついたら伝えてくれ…誕生日プレゼントはお前がミロにもらった分を返せばいい、と」
「りょーかい」
「誕生日の贈り物で重要なのは相手が何を望む可を知ることではなく…自分が相手に何を贈りたいか、ではないか?」
鋭い目つきの聖剣使いは抑揚のない声で言いました。
我に返ったカノンが真っ先に目にしたのはきりと揃えられた指とそして鋭い殺気のような小宇宙だった。
思わず「うわぁ!」と声をあげ星々を砕く技を繰り出そうとするカノンを寸前で留めたのは苦笑混じりのデスマスクの声だ。
「まあまあ、落着けって!」
「っ、意識が覚醒して一番にエクスかリバーを向けられ冷静でいられる人間がいるか!」
「……いねえなぁ」
あっけらかんとした物言いに今度こそカノンは呆れ果て溜息を吐き捨てる。
そうして目の前で直立不動のままこちらを見やるシュラへと視線を向けるのだった。
「お前も!いくら蟹に言われたからって易々と人にそれを向けるな!」
「俺ぁんなこと頼んでねえぞ」
「は?」
「俺が判断してやったのだ。カミュに凍らされたと聞いたからな…斬れば目覚めるかと」
「目を覚ます前に永眠するわ!」
デスマスクの言葉に思わず間抜けな声を上げてしまうカノン。そんなカノンにシュラは少し得意げな表情(と、言っても普段の能面顔と大差ないのだが)で頷く。
普段カミュと並ぶほどクールな男が、実は無口な理由は口を開けばとんちんかんなことを言うからではないか…だから喋るなとでも言われているのではないか、と一抹の不安を抱きながらカノンは苦虫を噛み殺したような表情を浮かべるのだった。
「ところでシュラはよ、もうミロへのプレゼント用意してるのか?」
もはやカノンではなくデスマスクの台詞になりつつあるその質問に、「20になって誕生日会というのも聊か…だがな」と漏らしながらもこくりと首を縦に振る。
「ミロが好きだと言っていた酒を何本か…それと菓子類を少々用意している」
「お、あっさり教えてくれるんだ」
「隠したところでなにがある?」
シュラのあっさりとした物言いにカノンはなるほどと思いながらも、しかし彼と自分では立場が違いすぎると胸中でぼやいた。
ミロが幼い頃から親交のあるシュラやデスマスクたちならばミロの好みだって熟知していて当然だし、選ぶのもたやすいだろう。
けれど自分は幼い頃のミロを知らない。どう育ちどう聖闘士の道を歩んだかも知らないのだ。恋人として、カノンはそれが悔しくてならなかった。仕方のないことだとは分かっていながらも、それでもカノンはミロについて何も知らないことがただただ悔しかったのだ。
「ミロへのプレゼントの目星がつかず…俺のところに相談にでもきたのか?」
「お!ご明察。さすがシュラ!鋭いな」
先ほどまでのぼけた発言とは違うするどい指摘に、カノンは思わず目を丸めた。
そんなカノンの反応にシュラは特別表情を変えることはなかったがやや、考える様な顔をするとゆっくりと言葉を紡ぐのだった。
「それぞれの立場、というものもある。俺からミロへ渡すべきもの。デスマスクからミロへ渡すべきもの。そしてお前からミロへ渡すべきもの…それはすべて違って当然だ。お前はお前が思うものを渡すべきだと俺は思う」
「俺が…渡すべきもの?」
小首を傾げシュラの言葉を反芻するカノンに、シュラは再び頷いた。
「誕生日の贈り物で重要なのは相手が何を望むかを知ることではなく…自分が相手に何を贈りたいか、ではないか?」
「俺が…何を、贈りたいか」
「まあ、簡単ではないだろうがな」
そう言いきって、シュラは「訓練に戻る」と二人に踵を返し中庭の方へと向かってしまった。
残されたカノンとデスマスク。
しばらくシュラの言葉を脳内で繰り返すカノンに「ほら、次行くんだろ?」とデスマスクは背中を押し、磨羯宮を後にするのだった。
【三番目は読めない男】
「しかし、いまだお菓子をプレゼントにやってるってーのもな。あいついつまでミロを子ども扱いしてんだろうな」
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