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つれづれとミロ受けなお話ポチポチ書いてます。
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処女宮から最後まで、です。
カノンの選んだプレゼントは・・・なんでしょう♪
後日ピクシブにまとめて掲載する際にちょっと加筆訂正します><;
ひとまずこれにてミロ誕生日小説終りです。
遅筆すぎました^^;



拍手[4回]


+ + + + + + + + + +


「贅沢な悩みだと思わんかね?」


神に最も近い男の言葉は胸にグさっとささります。


処女宮がにぎやか、という状況は口の中が乾燥し放題のデスマスクには到底信じられない光景だった。
当然それはカノンも同じだった。
シャカと言う男をカノンは多く知るわけではないが、それなりに情報は耳にしている。
曰く、「変わり者」だの「えらそう」だの。
ミロが言うには「難しい男だが為になることを多く知っている。得難い友だ」とのことらしいが、カノンにとってシャカという男はただのえらそうで捻くれた男、に他ならなかった。

「おや、カノンとデスマスク…とは珍しい組合せですね」

二人の姿を認めるや声を掛けてきたのはムウだ。
にぎやかさの原因はどうやら彼とそれからアルデバランにあるらしい。
なごやかにこの三人が会話をしているという光景がカノンには少し、奇妙にも感じられる。

「てめえらこそ珍しい組合せじゃねえか。羊に牛にシャカ、か」
「なぜ私は星座名ではないのかね?」
「男に乙女なんていうことほどぞっとするこたぁないぜ」

デスマスクの答えにシャカが「なるほど」と神妙に頷くのが妙におかしくて思わず噴出しそうになるのをなんとか堪えれば、代わりに目の前のアルデバランが盛大に笑い声を上げた。

「はっはっは、すまん。お前達の掛け合いが面白くてな」
「私たちの・・・? ふむ、そうかね」

さすがのシャカも聖域一の良心と呼ばれるアルデバランに噛み付くのは気が引けたのだろうか、目を閉じたまま彼のほうを一瞥すると小さくこくりと頷くのだった。

「私たちは飾りつけ担当なんですよ」
「飾りつけって…ミロの、か?」

まさかそこまで本格的なパーティーを考えていたとは思わず、驚きで声を裏返すカノンにムウは気にした様子もなく「ええ」と返事を返す。
ムウの言うとおり、彼らの後ろには色とりどりの紙で出来た花や輪が繋げられたものが見える。
まるで子供のクリスマスパーティーのようなソレが少し可笑しいというか…面白い。

「子供じゃないんだからそこまでしなくとも…と思いました?」
「い、いや…」
「ミロにも同じことを言われたんですよ」
「ミロに…?」

見た目こそ派手な容姿をしているが、その実ミロは質実剛健を好む性質だった。
それは育ってきた環境やサガの教育の賜かもしれないが、とかくミロが派手な騒ぎと言うものが苦手だということは新参者のカノンすら知る周知の事実だったのだ。
ならば、なにゆえミロの意見を遮ってまで盛大な誕生日パーティーを執り行おうとしているのだ?とカノンが問えばムウは「丁度良かったから、ですかね?」と小首を傾げるのだった。

「丁度いい?」
「聖域の復興…それを内外に示すためには何か盛大な催し物があればよい。そこに丁度良く廻ってきたのが彼の誕生日…というわけです」

むろん、それだけが彼の誕生日を盛り上げようとした理由ではありませんよ!
最後に付け加えムウはいぶかしげな表情を作るカノンに「言葉が少し悪かったですね」と頭を下げた。

「彼は私にとっても得難い友…だからな。盛大に祝わない理由がない」
「それに、誰かの誕生日を祝うのは久々だからな。そらぁみんな張り切るわな」

いつのまにかアルデバランに頼んだらしい水をコップ一杯飲み干してデスマスクは楽しげに口元をゆがめた。
彼等の口ぶりからミロがこの聖域においてどれほど愛されているか…垣間見ることが出来たようでカノンはなんだかわが事のように嬉しく思え、胸の奥がぽかぽかとするのを感じる。
誰かの幸せを妬み、やっかんだ事はいままで数数え切れないほどしてきたが、こんなにも誰かの幸せを嬉しく思えたことはない。
これもきっとミロのおかげなのだろうなと、そう思うと照れくささのようなものさえ湧いてくる。

「そんなお友だち想いの友人諸君はとうにプレゼントは用意してるよな?」
デスマスクの問いに三人は当たり前だといわんばかりに大きく首を縦に振った。

「もう誕生日も間近ですよ?用意していて当然じゃないですか」
「むしろ用意してないどころか…何をプレゼントしたら良いか分からぬ、とうじうじ悩んでいるほうが異常ではないかね?」

ぐさり、と思い切りシャカの言葉がカノンの胸に突き刺さる。
そりゃあ、お前達は長年ミロと付き添い…もとい親交があったかもしれないがこちらはこれからなのだ!
折れそうになる心をなんとか気力で立ち直らせ、カノンは「それで、何を送るのだ?」とデスマスクの言葉に続ける形で問うた。
ぴくり、と一瞬シャカの眉が動く…がすぐにそれはいつもの能面のような表情に戻った。

「俺は酒だな。あとは当日のパーティーの食事も担当してる」
「私はりんごのバスグッズです」
「シャカは?」

二人の答えに「なるほど」と自分のプレゼントを何にするか思考をめぐらせるカノンに再び問われ、シャカは小さく溜息を吐き捨てると「贅沢な悩みだと思わんかね?」と呆れた風な答えを返すのだった。

「大方、私たちは長く彼との付き合いがあるからプレゼントを選ぶにも彼の好みを予想できていいな、とでも思っているのだろう。君は」

図星だ、とは流石のカノンもこの年下にもかかわらず偉そうな男を前に言うことはできなかった。
ただ、返事の変わりに「う…」と小さく呻けば盛大な溜息が再びシャカの口から漏れ出すのがはっきりと耳に届く。

「君はなにか誤解をしているようだが…彼の好みのものが須らく彼が望む贈り物ではないのだぞ」
「・・・!」

シャカの言葉にムウもアルデバランも頷いてみせる。

「そうですね。彼の好みを私たちは分かっていても、彼が本当に望むものまでは流石に分かりません。だけど、少しでも彼に喜んでもらおうとプレゼントを選んだのです」
「思いやる気持ちと言うものは付き合いの長さではないと俺は思うぞ」
「…」

三人の言葉にカノンは返す言葉もなかった。
付き合いが長いからといって、彼らがミロの全てを把握できるわけないことくらい、少し考えれば分かったろうに。
そこに至れなかったのはひとえに、彼等の付き合いの長さに心の奥底で嫉妬心を抱いていたからなのだろうとカノンは推測した。
自分が知らないミロを知っている彼らに…。

「君は私たちに嫉妬しているようだが…私はむしろ君が羨ましいのだよ。結局彼は君を選んだ。それは代えようのない事実だ。まったく…少しは君に辛く当たっても罰はあたらんだろう?」

言葉こそ酷いものだったが、しかしシャカの口元に小さな微笑があったことをカノンは見逃さなかった。



【六番目の嫉妬心】


「もしもミロを泣かせるようなことがあれば…五感を奪うだけでは済まされないと…覚悟したまえ」
「肝に…銘じるさ」




主不在の獅子宮を抜け(主のアイオリアはまだ人馬宮に留まっているようだ)巨蟹宮へと足を踏み入れる。
聖域第四の宮であるここは半日を「暇つぶし」と称し付き合ってくれたデスマスクの治める宮であった。

「悪かったな。つき合わせて」
「なに。丁度いい暇つぶしになったし、気にすんな」

というか、殊勝なお前は気持ちが悪い!なんだかものすごく失礼なことを言われたが、カノンはあえてそれは聞き流すことにして巨蟹宮を後にしようとした…が、

「おい、カノン」
「なんだ?」

デスマスクと別れ自宮へと戻ろうと足を踏み出そうとしたカノンは不意に彼に名を呼ばれ足を止めて振り向く。
一体なんだ、と口を開く前に先に話始めたのはデスマスクだった。


「俺等はさ、事前になんとなく相談してんだよ」
「何を?」
「プレゼント」
「は?」

一瞬、本当に彼が何を言っているのか理解できず間抜けな声を上げてしまうカノンにデスマスクは苦笑交じりに「だからな」ともう一度続ける。

「例えば同じCDをプレゼントして被っても嫌だろう? だから事前に打ち合わせはしてんだよ。あいつら、空気呼んで知らんふりでプレゼント教えてくれたけどよ」

デスマスクの言葉にカノンは急に恥ずかしさがぶわりと体中に吹き上がるのを感じた。
知らぬは己だけだったのだ。
その事実がカノンの足元をぐらつかせた。頭を真っ白にさせた。

「言っておくが、別にお前を仲間はずれにしようとかそういう意図じゃねえからな?」
「・・・では、どういう」

震えそうになる声をなんとか抑えれて尋ねれば、デスマスクは口元に浮かべていた軽薄そうな笑みを消した。
その真剣な表情にカノンも思わず息を呑む。
デスマスクのそんな表情を見るのはもしかしたら初めてかもしれない。

「お前にあえて言わなかったのは…お前にしか考え付かないプレゼントを思いつかせるためだ。何回も言うけど、俺等は小さい頃からミロを知ってる。育ってきた環境、趣味…大抵の事は分かってる・・・つもりだ。だけどな、それは仲間としての視点で、という話で、それ以上の内面に踏み込んだ視点って言うのはこの聖域でもたった一人しか持ち合わせちゃいないんだ。恋人としての視点っていうのはな」
「恋…人」

恋人、という単語にカノンはつきりと甘い痛みが胸の奥に走るのを感じる。
聖戦が終わり、蘇った後にカノンは聖戦の最中に凄烈な痛みとともに許しを与えれくれたミロに興味を持ち、近づいた。
彼は自分が聖域にすぐに慣れるよういろいろとしてくれて、色んなことにもつきあってもくれた。カノンの中のミロに対する「興味」が「思慕」に変わるにはそう時間はいらなかった。
その想いを受け入れてもらえたときの嬉しさと驚きは今でもカノンは忘れられない。
「どうして受け入れてくれたのだ…?」
勝算がなかったわけではないが予想よりもあっさりと自分を受け入れてくれたミロに尋ねたとき・・・そうだ、あの時ミロは何と言っただろう…。

「っと、まぁ。俺のアドバイスはここまでだ、色男。あとはてめえで考えな」

言って、デスマスクが浮かべた表情はいつものちょっとばかし人を皮肉った様なニヒルな笑顔だった。
彼とミロの間に昔なにがしかあったことはカノンもミロ本人から聞き及んでいるし、それを気にしたことがないといえば嘘になるだろう。
だが、カノンはデスマスクと言う男が嫌いにはなれなかった。
自ら悪役を買って出るようなこの男が、意外にも面倒見の良いこの男が…カノンは嫌いではなかった。

「ああ、そうだ。カミュからの伝言を忘れるところだった」
「カミュの?」

歩き出そうとして、再び掛けられた声に振り向けばデスマスクの口から出たのは意外な人物の名前だった。
彼は自分に対して先ほどの態度しかり、良い印象を持たれてないだろうからそのアドバイスももしかしたらとんでもないものかもしれない。
ごくり、と息を呑みそのアドバイスを待つカノンは、続けられる意外な言葉に目を瞬くのだった。

「ああ。アドバイスだとよ。ミロに特別なものを贈りたいのならば…自分がもらった分を返せばいい…だとさ」
「…もらった…分」
「がんばれよ、色男」


ぽん、と背中を叩かれてカノンは今度こそ自宮へと歩き出した。
最初はとぼとぼと、次第に大またに…小走りに。
自宮へ向かうカノンの胸中からはもやもやした感情はもはや消えていた。
カミュのアドバイスで気持ちが晴れた…なんて、少しばかり複雑だが…感謝はしておこうとカノンは思う。

もう、カノンに迷いはなかった。




双児宮に戻るといつの間にか、街に買い物に出ていたサガが帰ってきていた。
「カノン。どこをほっつき歩いていたんだ。私は出掛けにシーツを取り込んでおいてくれと頼んだはずだがな」

カノンがリビングに入ってきたことを気配で感じたのだろう、テーブルの上でなにやら書き物をしながらサガは振り向きもせずにカノンへとそう言い放った。
そういえばそんなことを言われた気がする…とカノンもぼんやりと思い出すが覚えていてもきっとやらなかったろうと記憶を手繰るのをやめた。


「サガ…ミロへのプレゼントはもう買ってあるか?」

ふと気になって、カノンはサガへと声をかけた。
その問いかけはカノン自身呆れるほど小さく自信のない声だったが、サガはすぐさまに顔を上げると体ごとカノンへと振り返り「もちろんだ」と大きく首を縦に振って見せる。

「まさか…まだ悩んでいるのか?」
「…ああ。いや、悩んでいた…というのが正解だろうな」

その答えにサガは首をかしげ「どういうことだ?」と問いかける。
サガの問いにカノンは小さく息を吐き捨て、口元に小さな笑みを浮かべるとサガの向かいの椅子に腰を下ろした。

「高価なもの…ミロが欲しがっているもの…好きなもの。いろいろと考えてみた。けど、高価ってだけじゃミロは喜ばないし、好きなものは俺よりももっともっと詳しい奴等がここには大勢いるってことに気づいたんだ」

約半日の十二宮制覇で知ったのは、如何にミロが愛されているかと言うこと、思われているということだった。
今までの自分であれば彼らに思いの強さでどう勝てば良いか、と悩んでいただろう。
けれどそれは違うのだと今日はたくさん気づかされた。
思いの強さに勝ちも負けもない。
大切なのは、そんなことではないのだと。

「サガ…頼みがあるのだ」

真剣な目で自分を見つめてくる弟にサガは一瞬目を丸めたがすぐに同じく真剣な目で見つめ返した。
幼い頃、まだ彼をスニオンの岬に閉じ込める前…でもこんな真剣に頼みごとをこの弟にされたことはない。
その弟がこんなにも真剣に、自分に頼みごとをしてくれるのがサガには少しばかりくすぐったくもあり、兄として誇らしくもあった。

「私で出来るなら…力を貸そう」

可愛げはないが、かわいい弟の為に。
大きく頷くサガの顔はアイオロスと同じやはり
「頼れる兄」の顔だった。




「今日はお前の誕生日だというのに…すまないね」

出掛けにサガに言われたことを思い出し、ミロは口元に苦笑いを浮かべた。
任務地である極東の地より聖域に帰ってきた日の夜、ミロはサガに新たな任を与えられた。
場所も任務も空港に行けば分かる、とサガは教えてくれなかったがミロはその任を二つ返事で受け入れた。
聖闘士に私情は禁物だ。
それが教皇自ら下した任であればなおさら誕生日がどうのなどと言ってはいられない。

「折角用意してくれた…皆には少し悪かったけどな」

空港へ向うバスの中でミロは車窓の外を流れる景色を見つめながらぼんやりとそう呟く。
サガは「ミロが帰って来たら盛大に祝おう」と言ってくれたし、ムウをはじめ仲間たちもそう約束してくれた。
小さな子どものようにいつまでも誕生日パーティーを惜しむわけではないが一寸だけ、後ろ髪が引かれる思いがミロにはあったのだ。
それに…

「カノン…無理をしていないと良いが」

いつもなら任務が終り聖域に帰ってきたとき、一番に飛んできてくれるカノンの姿がなかったことが今一番ミロの気持ちを重くしていたのだ。
サガに聞けば「任務で忙しくてね」と返され、ならばと夜に双児宮を尋ねてみたが昼と同じく双児宮はもぬけの殻だったのだ。

「あいつ…また無茶をしていなければ良いが…」

過去の贖罪のつもりなのか、カノンは放っておくとすぐに無茶をする。
いつだったか四日徹夜をしてぶっ倒れたときなんかミロはカノンをめいっぱい叱ったほどだ。

「無茶をして倒れてなんになる!罪滅ぼしのつもりかはわからんが、ぼろぼろになるまで働いてアテナが御喜びになるとでも思っているのか!お前に何かあって悲しむものこそあれど、喜ぶものはおらんのだぞ!」

そう叱って以来、カノンも目立った無茶はやらかさなくなったがそれでもミロは心配を拭いきることはできなかった。
聖闘士である自分達はそう生半可な体力を持っているわけではないが、それでも無茶をすれば故障する。
人間なのだから無理がたたれば命にも関わる。

「そもそもあいつももう、歳なのだから…もう少し自身を省みるべきなんだ」

聖衣箱が入ったかばんを背負い、バスを降りながらミロは空港を見上げ小さく溜息を吐き捨てる。
自分より8つ年上のカノン。男盛りとは言うけれど、デスマスクに言わせれば「曲がり角」でもあるらしいし、用心にこしたことはないのだ。

「そうだ…カノンになにか栄養のあるもの贈ろうかな…にんにく、とか」

日本のテレビCMで「にんにくは体に良い!」と流していたことを思い出しミロは独り言を零す。
何の気ないただの独り言。
胸中の心配を誤魔化すための軽い冗談のような。
だからミロはその独り言に返事が返ってきたことに心臓が止まるほどに驚くのだった。

「人のことを年寄り扱いするな!」
「!」

びくり、と肩を揺らし振り替えるミロは視線の先の人物に目を大きく見開いた。

「か、ノン…なんで」
「なんでって、お前の任務のパートナーだからだよ」

空港の入り口近くのソファに座っていたのはラフな服に身を包んだカノンだった。
驚き固まったままのミロをぐいぐいと押して歩き出すカノンに漸く我に返ったミロは慌てて足を踏ん張って動きを止めさせる。
どうしてここにカノンが、とか今までどこで仕事をしていたんだ…とか聞きたいことはたくさんあったのだが、とりあえず一番に聞きたいのは…

「どうした?トイレか?」
「違う!そうじゃない!」

首をかしげながら問うて来るカノンに、ミロは首を思い切り横に振りながらカノンを睨み上げる。

「俺が聞きたいのは任務の事だ。何も聞かされていないし何処に行くかも分からん。まずは説明をしてくれ」

空港という公の場だから目立たぬようにと抑えた声で問い詰めてくるミロの様子にカノンは口元が緩んでいくのを抑えられない。
察しがよければこの時点で気づいただろうが、真面目一辺倒のミロはまったく考えも及ばないらしい。

「チケットはこれ」
「……日本?任務地は日本なのか?」

先ほど、その日本から帰ってきたばかりなのに…という気持ちと、それからあの国で聖闘士…それも黄金が二人も必要な事件でも起こったのだろうかという不安と。
ないまぜになった表情を浮かべるミロに、カノンは口元を緩めたままこつんと小さくミロの頭を小突いた。

「任務っていうか…まあ、任務の一つになるのかな?」
「歯切れが悪いな…なんなんだ!」
「ん…?んー…今回の任務はだな、俺と一緒に日本旅行!ってやつだ」

数秒、ミロはぽかんと口を開け放ったままカノンの顔を凝視する。
しかしその後、彼は思い切り眉を寄せるとカノンを睨みつけるとくるりと彼に背を向けた。

「ミロ?」
「帰る! こんなだまし討ちの様な真似は好きじゃないこと知っているだろ!」

危急の任務だったから、余程のことだと思っていたのに。しかも、サガまでもがグルだったなんて…。
騙されていたという事実がミロにはただただ許せなかった。
こんな嘘、カノンがつくなんて!
肩を怒らせ歩き出すミロに、カノンは慌てたように声を上げる。

「ミロ!」
「五月蝿い…!俺は帰るったら帰…」
「…ずっと…、何をプレゼントすればいいか、悩んでた」

静かなカノンの言葉に足を止め、ミロは首だけをカノンへと向ける。
視線の先のカノンは…やけに真剣な顔をしていた。
ミロは足を止めたまま、今度は体ごとカノンへと振り返る。

「何を贈ればいいか、なにが喜ばれるか。たくさん考えて、でもミロが欲しがりそうなものが俺には思いつかなかった。だから…お前に貰ったものを思い出してみたんだ」
「俺が…あげたもの?」

こつこつ、と音を立てカノンがこちらへと歩いてくる。
ミロはそんなカノンに何をするでもなく、ただ立ち尽くし彼が近づくのを見守った。
カノンの真剣さがひしひしと空気を伝い、ミロは身動き一つとれない。

「最初にくれたのは痛みと、赦しだ。お前は俺の罪を許し…仲間として認めてくれた。そして居場所をくれた。お前がくれたものは数え切れないほどたくさんあって、それを思ったら、どんなプレゼントも霞んでしまう、そんな気がしたんだ」

言葉をそこで区切って、カノンはなんと返してよいか逡巡している様子のミロの肩を掴んだ。
高価なものでも意味がない…でもミロが望むものも分からない。
悩んで悩んで悩みぬいて導いた答え。
それが正しいかはカノンには分からなかったが、それでもカノンにはそれ以上の答えを導き出すことは出来なかったのだ。

「俺や…聖闘士は皆、アテナに忠誠を誓い、命を捧げている。だから命をお前にやることは出来ない。だが…心は、違う。心だけは俺の自由にしていい…だろう?」
「カノン…」

漸くミロが搾り出せたのは小さな、かすれた声。
けれど、カノンはそれだけでよかった。そう名前を呼ばれるだけで勇気がわいてくるような気がした。
恥ずかしすぎる台詞も、彼の為になんでも言えると思った。

「ミロ…誕生日プレゼントは俺の心だ。俺がお前に出来る最大の贈り物…ミロ、俺と、結婚してください」
「っ…!」

しばしの沈黙に…カノンは駄目だったかな、と下げた頭を上げられないままつま先をじっと見つめていた。
100%受け入れられる自身など、カノンも持ち合わせては居なかった。
一方的な思いだけで、相手を自分のものに出来ると考えるほどカノンとて夢見がちではない。ミロにだって相手を選ぶ権利は…

「っ…ミロ?」
「頭、あげんな!」

不意に、膝の裏を蹴られてうまく踏ん張れずに床に膝をついたカノンは背中に重みを覚え、慌てて顔を上げようとするもそれをミロに遮られた。
人気がない空港の隅っことはいえ、ミロらしからぬ突然の行動にカノンは大人しく言うことを聞くしかない。

「そんなプレゼント…貰うなんて、想像もしなかった」
「…すまん」
「なんで謝るんだよ!!俺は…っ…俺は…」

ミロの声はかすかに震えていた。
吐き出す吐息もかすかに震え、それから背中越しに感じる彼の鼓動は早鐘のようで…。

「お前…どきどきしすぎだろ」
「うるさいっ……そんな、プレゼント貰って冷静でいられるほど俺も人間できてないんだよ…っ!悪かったな…」
「わ、悪い…」

謝って、ふたたび沈黙に閉ざされる空気にカノンはおそるおそるミロのほうを伺いみた。
さらりと崩れたミロのサイドの髪から覗く耳は赤く染まっている。

「ミロ…」
「俺…、お前に比べたら子供だし、直情径行だって自覚もある。真面目すぎて融通がきかない頑固者だし…、感情高ぶると未だに子供みたいに泣きそうになるし」

言いながら小さく鼻を鳴らすミロが、カノンはただただ愛しく思えた。
直情径行なところも、真面目すぎるところも、頑固者なところも…全て、全てがカノンが気に入っているところだ。
人の為に怒れるところも、泣くことが出来るところも…たとえそれが聖闘士らしからぬといわれようと、それがミロの良いところだとカノンは胸を張って自慢できる。
我がことのように。

「そんな…俺でも、いいのか?」
「っ…」

ミロの腕をひっぱり、カノンはその体を自分の腕の中に閉じ込める。
抵抗は、ない。
ミロはただ大人しくカノンにされるがままだ。

「だが、それがいいんだ」

ふわふわの金の髪で覆われた頭頂部に口付け、カノンは嬉しそうに、少しだけ泣き出しそうに表情を歪めるとミロの体を抱きしめる腕に力を込めて言うのだった。

「俺は…だから、お前に惹かれたのだ」と。
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